第16巻『この男を愛してしまった』

"千八十の夜行の列・・・執着を断て。"

その冬、おおつごもり、ヘンなネコの霊を連れて、あたしのダンナがやってきた。ユルくて、ビンタぐらいで泣いて、寒さに鼻水流して、紅白歌合戦でボブなんか見たがって、スケベで、昼間からいやらしいこと思い浮かべる変態で、あたしの苦しみも哀しみも痛みも怨みも何一つ分かりやしないくせに立ち入って、立ち入って、あたしの心に立ち入って、ふすまごしに「なんとかなる」って約束して、初詣に連れ出して、かけがえない人になって――『恐山ル・ヴォワール』。後編を収録。