武井先生が伝えたかったこととは?『ユンボル』と『311』の関係から見える復興への願い
ユンボル世界と現実世界の時間関係。
※当記事では「引用」に該当すると考えられる範囲で漫画本編の画像、セリフを掲載していますが、もし問題等ありましたら、サイドメニューのアドレスまでご連絡ください。
今月号のウルトラジャンプに掲載された『ユンボル-JUMBOR-』の冒頭で、さりげなく、しかし重要な設定が明かされました。
それは作品世界の年代です。
ウルトラジャンプで連載されている『ユンボル-JUMBOR-』は第1工程で世界が"解体"され、「ワールドザンド」が始まりました。主人公バル・クロウがユンボルとして目覚めたのはワールドザンド歴10年。ですが、解体前の世界がいつなのかは明言されていませんでした。
今月号の話はバル・クロウ組のトビー・マクワイアの回想で描かれており、西暦2028年にワイアがバルに雇われ、ニューヨークの高層ビル建築に携わったエピソードが語られています。これが第1工程の5〜6年前の話なので、第1工程の同時多発工事が2030年代、ユンボル・バルが目覚めたワールドザンド歴10年は2040年代ということになります。
これが何を意味しているかというと、コミックス4巻で描かれたバルの過去が、現実に起きたある出来事と繋がっている可能性が高い、ということです。
コミックス4巻収録の第17工程で描かれたバルの過去。学ランを着ていることから、中学生か高校生。そして、日本に住んでいたということが明らかに。海を眺めるバルですが、その周辺にはガレキの山。父親は津波にのみこまれ、行方不明に。
今月号で明かされた時代設定と、このバルの過去を照らし合わせて考えてみます。
第1工程時点でバルは36歳で、ワイアの回想(西暦2028年)では30歳前後。学ランを着たバルが中学生か高校生かわかりませんが、中学生と仮定すると13〜15歳。そうしてこの回想の時期を考えると、恐らく2010年代前半。
さらに「日本」「津波」「季節は冬」ということから、2011年3月11日に起きた、東日本大震災の時期である可能性が高いと思われるんです。
今月号で、バルが「故郷が震災で滅茶苦茶になった」と話していることも、それを裏付けているように思えます。
少し話は変わりますが、読切版以降の『ユンボル-JUMBOR-』では、脚本担当として御上裕真先生の名前がクレジットされるようになりました。御上裕真先生は『シャーマンキング』の頃から武井作品の設定作成に協力していた方で、『シャーマンキング完全版』では原色魂図鑑の解説文も担当していました。
そんな御上先生ですが、コミックス4巻以降表記が変わり、「脚本」から「設定協力」になっています。
この変更が厳密に行われたのが、コミックス4巻収録の第17工程だったんです。ウルトラジャンプ2011年12月号に掲載された第16工程までは「脚本」表記で、2012年2月号に掲載された第17工程から「設定協力」表記に変わっています(2012年1月号は休載)。
何故、御上先生の役割が変わったのか?個人的な予想ですが、バルが震災を経験したという設定を盛り込んだ上でストーリーを展開するために、17工程から武井先生自身が脚本を担当するようになったのではないかと思うんです。
そもそも、東日本大震災は『ユンボル-JUMBOR-』連載中に起こった出来事でした。連載が始まった時点で御上先生がどこまで脚本を練っていたかはわかりませんが、少なくともバルがこの震災を経験していたという設定は無かったはずです。
バルの母を救い、バルを工事の道へ進めるきっかけを作った"ヒゲのオッサン"は、バルに「家族を守ること」の大切さを説いていきました。バルはこの言葉を指針に働き、ドカルトに目を付けられるほどの工事戦士になりました(この表現だとなんか嫌だな…)。
震災を経験したバルがそれを乗り越え、今度は世界を復興するために奮闘する。工事を動かす根底にあるのは、人を想う熱い思い。
『ユンボル-JUMBOR-』の世界では、震災の被害を受けたバルの故郷が復興を遂げたことが語られています。
壊すだけの選択肢に未来はねーってことさ
実はオレの故郷も震災で何もかも滅茶苦茶になっちまってな
だが誰一人故郷をなくした痛みに打ちひしがれたままじゃいなかった
みんなが大切な誰かや何かのために立ち上がり街を再生させたんだ
それに今ではオレにだって家族がいる
しかも今度は下の子供も生まれるんだぜ
だからオレは工事をするんだ
大切なものを守るためにな
このバルのセリフに、被災地復興への願いが込められているのではないでしょうか。
ちなみに今月号、この記事で語ったような考察はともかく、一つのエピソードとして非常に面白いです。
バルの息子のショベルが登場したとき、つまり週刊連載版からストーリーが大幅に逸れたときが、前号までの時点で個人的に一番盛り上がったところだったのですが、今月号はそれを大きく上回りました。故郷を嫌い都会へ出たワイアが、故郷を失くしてから抱いた葛藤、その末に得たもの。
単行本派の方が読むには若干話数のズレがありますが、次のコミックスが出るのはまだまだ先でしょうし、是非本誌を買って読んでいただきたいです。
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